I love you に代わる言葉
「その笹山って女、見た目もそうだったけど、色々と俺の想像を遥かに超えてた」
「……どんな風にさ」
 問えば今井は僅かに驚いた表情でこちらを見てきた。が、それはすぐに消え去りまたも正面を向く。
「……まぁ、それはマジ色々で……。どんな女かと面白がって見に行ったからな。仲良くなれば……あれは惚れるわな。日生も意外にマジなんだって気付いた」
「――ちょっと待ちなよ。ボクは惚れたなんて一言も言ってない」
 そう言うと、今井は「え?」とでも言うように目を丸くした。
「それにそのおねーさんと仲良くなった覚えもない。話す機会があって数回話した程度だ」
 今井はまだ「え?」とでも言うように目を丸くしている。何その無駄に邪気のない顔、ムカつくんだけど。
「お前何言ってんだよ。ここ最近お前が変わったのは惚れたからだろ? それに、あの店員と何処でどうやって話す機会が出来んだよ。店にでも出向かなきゃ無理だろ」
 さっきから何なんだよ、変わったって。本当に意味が解らない。
「授業真面目に出るようになったのも、あの店員が『真面目な人が好き』とか言ったからじゃねーの」
「いい加減にしなよ。アンタさっきから何言ってるのさ」
 そう言ってキッと睨み上げる。
 今井の発言が酷く不愉快だった。これ以上こいつと話すとその内殴ってしまうかも知れない。だから今井の言葉を制止する言葉を吐いて、この場から立ち去ろうと立ち上がった。
 数歩歩いて今井に背を向ける。そして背後を振り返らずに言葉を放つ。
「――ボクはボクのままだ。何も変わらない」
 今井は確実にボクを見ている。何か言いたげな視線が背中に突き刺さって。沈黙が何かを語る様だった。
 ゆっくりと振り返れば、ほらね。今井は不機嫌そうな面持ちで、やっぱり何か言いたげにこちらを見ている。
「……それにあの女がどういう奴を好んでいようがボクには関係の無い事だ」
 ――既に彼氏が居るだろうしね。
 浮かんだ言葉に、全身が震えた様な気がした。同時に、チクリと何処かで痛みが走る。
「……そんな顔すんなら、そんな事言わなきゃいいだろ」
「……は?」
「まぁ、……解ってねーんならいいけど」
 今井は溜息混じりにそう言うと、窓の外へ顔を向けた。
 その様子に酷く苛立って。ボクは乱暴に扉を開けて保健室を出た。背中に今井の視線が突き刺さるけど、今此処で振り返る訳にはいかなかった。酷い顔を奴に、ボクは向けてしまいそうだったから。



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