I love you に代わる言葉
 小さく溜息をついてゆっくりと振り返れば、嬉しそうに笑う今井と目が合う。話を聞き入れる体勢にボクがなったと思ったのか。というか何だこいつ。こんなキャラだったか?
「なぁ、今日煌宝に……、」
「だからアンタ一人で行けばいいだろ」
 言葉を最後まで聞かずに冷たい口調で突き放す。ぐっと言葉に詰まった様だが、やはり以前の様に何処か怯えた表情は見せなくなった。が、やはり強く出る事もない。
 その口唇はまだ何かを紡ぎそうだったが見なかった事にし、今井に背を向けて歩き出せば、今井もボクの後をついてくる。同じクラスだから行き先は同じなんだけど、うざい。
 二学年のクラスが並ぶ二階へと続く階段の踊り場まで来ると、ボクは立ち止まり苛立ちを思い切り表情に乗せたまま振り返った。
 突然の事にぎょっとする今井。何とも言えないアホ面だ。
「うざいんだけど」
 二段下に居る今井を見下ろす形で一言そう言えば、視線を逸らし言葉を詰まらせた。
「……同じ方向なんだから仕方ねーだろ」
 やや間を置いてボソッと反論して来る。
「だからってボクのすぐ後ろをついて歩かなくてもいいだろ」
 そう言って再び歩を進めれば、今度は先程より距離を開けてついてくる。
 チッと小さく舌打ちをした。
 そろそろ殴ってもいいだろうか、距離の問題じゃない事くらい解れよ。
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