I love you に代わる言葉


「――で、これからどうするよ?」
「アンタが煌宝へ行こうって言ったんだろ」
 隣に目を向けず前方を見据えたまま答えれば、「ああ」と思い出した様に今井は呟く。ああって何さ。自分が言い出したくせに。
 そういやこいつ、一度オバサンに万引き見付かってるんだよな。よく堂々と顔出せるな。人の事言えないけど。
「アンタは煌宝へ何しに行くのさ。ていうか、アンタ執拗にボクに付き纏ってきたけど、一緒に行く意味は何なのさ」
「あー……、応援?」
「は? 何のさ」
「恋の」
 そう言われて思わず顔を顰める。物凄く不愉快だった。
 渦巻いていた名も知れぬ感情に随分と苦しめられ、だがその名を先刻こいつに教えられた。それは意外にも簡単にすとんと自分の中に落ちた。
 ああ、これがそうか、と。
 だけどボクにだってプライドというものがある。それは何処か屈辱的ではあったし、こうしてさらっと口にされれば羞恥心を煽られる。要はムカつくんだ。
「いらないよ。アンタやっぱ帰りなよ」
 ボクの感情を悟られぬよう冷たく言い放てば、今井は慌てていた。
「ええ!? ここまで来てかよ!?」
「ここまでも何も、煌宝まではまだ距離がある。次の交差点で右に行けばアンタは帰れるだろ」
「ここまでって、別に距離の事じゃねーよ。お前意外と天然か」
 睨み上げれば僅かに身を引いた。だがやはり以前とは様子の違うこいつに僅かながら苛立ちを覚えた。良くも悪くも対等になった気がして。
「そう言えばアンタ、おねーさんに話し掛けたって言ってたよね? 何て話し掛けたのさ」
「ああ、トイレの場所聞いただけだよ」
 ……何とも呆れる。それだけでおねーさんが魅力的だと思えたこいつはおめでたい奴なのか単なる馬鹿なのか。何にしろ、やっぱりこいつは馬鹿なんだろう。



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