I love you に代わる言葉


 交えたくだらない雑談は、面倒でありながらも何処か心地良いものだった。そう思える時間を送り、ボク達はショッピングモールに到着した。
 時間帯の所為かやはり学生が多いな。
 目的地は煌宝。他に目もくれずそこだけを目指すが、自分の中にあるおねーさんに向ける感情の名を知れば、目的地へ向かう足は僅かながら逡巡し速度が落ちる。
 隣を歩く今井を横目で盗み見れば、ペースが落ちた事など気付いていないようだった。
「来たのはいいが、その笹山ってねーさんいんのかな」
「さぁね」
 素っ気無く答えたが、正直言えばボクも若干不安だった。目的を持って来ると会えない事が多い。
 おねーさんに二度目会った時がそうだ。会えなくて何度か足を運んだっけ。尤も、今日目的を持って来た訳でもないけど。今井に誘われるまま来ただけだ。いや違う。目的と言えるか微妙だが、『会いたい』という感情こそそうなのかも知れない。
 そこまで思考して眉が寄る。
 こうして冷静に考えてみると、会いたいなどとは、何とも信じ難い事実。変わり果てた姿に目を背けたくなる。
 あまりに愚かで滑稽であるのに、持ち得た事のないそれは崇高でもある。
「――緊張してんのか?」
 声を掛けられハッとする。
 煌宝へ近付くにつれて寄った眉と押し黙るボクの姿は、きっとそうとしか思えないのだろう。
「別に。何度か話してるしね」
 とは言ったものの、言われてみればそうかも知れない。この感情を知る以前にあった戸惑いや苛立ちは、こうして不安や緊張と言ったものに変化するみたいだ。
 平然たる態度は今井を信じ込ませるには十分だったらしく、ふーんと返されるだけだった。
「お。居たぜ」
 ドキリと高鳴る鼓動。スッと顔を上げれば、レジカウンターに立つおねーさんが見えた。
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