I love you に代わる言葉
 思わず足を止めそうになったが、それでも近付いた。
 店の近くまで来ると客の来店を感じたのか不意におねーさんは顔を上げてこちらを見た。
 かちりと目が合ってドキリとしたが、ボクだと気付いたおねーさんはにこりと笑ってくれたので内心ホッとする。


「こんにちは」


 ご丁寧にいつもこの挨拶から始まる。
 何と返せばいいものかと思考を巡らせたが、返らぬ返事にやはり然して気にも留めない。
 ただ、ボクの隣を物珍しげに見つめてきょとんとしている。
「お友達ですか?」
 やや間を置いて尋ねられた。『友達』という単語にむず痒い感覚を覚えたのと使い慣れないのとで、結局「下僕」と答えた。
「はぁ!?」と横から今にも掴み掛かってきそうな形相の今井は無視しておく。
 おねーさんは一瞬瞳を丸くさせてから吹き出した。意外にもツボをついたのか楽しそうに笑っている。
「ふふふ、日生くんの下僕だったんですね。前に一度お会いしましたね」
 おねーさんは悪戯っぽく笑うと、ボクの言葉にノリノリで今井に声を掛けた。
「覚えててくれたんスね。てか下僕じゃないッスよ!」
「ふふ、解ってますよ。綺麗な金髪だから覚えていました。制服が日生くんと一緒でしたし。藤村さんからも色々……」
「藤村?」
「店長です」
 今井はそう言われても藤村という人物が解らなかったらしい。
「アンタの万引きを叱った人さ」
 横から口を挟み簡潔に伝えれば、今井は「ああー!」と声を上げた。
「万引きの件で藤村さんから聞いていたんですよ。だから、実は会う以前から顔は知っています」
 ああ、ボクの時と同じか。
「あのオバサン店長だったのか……」
 ボソッと呟かれた言葉がおねーさんには聞き取れなかったらしく小首を傾げている。ボクは隣に居た為聞き取れたが、敢えて何も言わないでおいた。気持ちは解る。ボクも初めは驚いたからね。
< 82 / 415 >

この作品をシェア

pagetop