I love you に代わる言葉
「日生くん、今日も石を見に来てくれたんですか?」
 嬉しそうな笑顔をこちらに向けて尋ねてくるから、照れ臭くて視線を下げれば、隣でフッと今井が笑ったのが解った。くそっ、後で覚えてろ。
「うん、まぁ……」
 視線を絡めぬまま素っ気無く答えたのに、やっぱり嬉しそうに笑うから……それが『嬉しい』なんて思ってしまう。感情に素直になる自分が気持ち悪い。
「何か気になる石ありますか?」
「おねーさんのオススメは?」
 何も詳しくないから逆に質問して切り抜ける。
 単純におねーさんの好みを聞いてもおきたかった。
 オススメですか、そう言って店内を見回した。キョロキョロと顔を動かす度にサラサラと揺れる綺麗な黒髪から、ふわっといい香りがした。
 ……ヤバイ、ボクもこんな事に反応するようになったのか……。
「オススメというか、つい先日入荷したばかりの『原油入り水晶』というものがあるのですが、見てみますか?」
「水晶の中に原油が入ってるの?」
「はい、その通りです」
「名前、そのまんまなんだね」
「だけどとても綺麗なんですよ。こちらです」
 おねーさんは店内の隅へボク達を案内する。
 ボクはやや斜め後ろに居る今井に目配せし、行くよという合図を送った。
 水晶は前に一度見せて貰った事がある。店内を見渡せば結構あちこちにそれらしきものが見えるから、二度も見せる必要があるのだろうか。それとも、その原油というものが綺麗、と言っているのだろうか。
 そんな思いを巡らせながらおねーさんの後について行く。
 背後を振り返って今井を見てみれば、石に興味を示すというよりも、ボク達に興味津々のようだったから腹が立った。
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