I love you に代わる言葉


「蛍光鉱物は、これの他にも沢山あるんですよ。一番有名なのは蛍石ですね」
「ああ、聞いた事はあるね。他は?」
「アンバー、オパール、ルビー、マンガンカルサイト。ベニト石(せき)も蛍光鉱物の一種ですが、あのブラックライトでは光らないんですよ」
 おねーさんは説明しながら一度視線をブラックライトの方へ向けた。
「何で?」
 尋ねれば再度視線が交じり合う。
 因みに今井は、話も聞かずブラックライトで遊んでいる。石でなく手を翳したりしている。子供かあいつは。
「先程も言いましたが、あれは長波長の紫外線を放射するライトなんです。ベニト石が蛍光するには、短波紫外線でないといけないんです。だけど、長波紫外線でも蛍光するベニト石もあるらしいですよ、このお店にはありませんが」
「へぇ」
「また後で他の蛍光鉱物見てみます? 今は彼が遊んでいるから無理ですね」
 今井の方を向いておねーさんはクスクスと笑った。まるで手の掛かる弟を見る様な優しい眼差しで。
「他の蛍光鉱物って綺麗なの?」
 今井に向けられた優しい眼差しが少しだけ悔しくて、わざと質問して視線をこちらに引き戻す。
 何て稚い……成長の欠如を晒しているかのようだったが、ボクを見て、欲しかった。
「勿論、綺麗ですよ。ブルーアンバーというものがとても美しいそうですが、当店には無いんです。普通のアンバーしか」
「あんばーって何?」
「琥珀、と言えば解りますか?」
「ああ、よく聞くね」
「琥珀って正確には鉱物ではなく樹脂なんですよ。木の樹脂が化石化したものです。鉱物ではないけれど、硬度は鉱物に匹敵するとか。樹脂が地中に落ち長い年月をかけて固化したものですから、虫が混入しているものもありますよ」
「……へぇ」
「虫入り琥珀なら当店にもありますよ、見ますか?」
「……いい」
 虫入りなんて正直気持ち悪い。おねーさんにボクの感情は悟られたろう。案の定おねーさんは「虫が苦手なんですね」と言って笑った。
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