I love you に代わる言葉
「ルビーやマンガンカルサイトは、その色が鮮やかさを増す、と言った感じでしょうか」
「ルビーって確か何月かの誕生石だよね?」
「ええ、そうです。七月の。日生くんの誕生月は?」
 尋ねられて少しだけ動揺が生まれた。ただ、話の流れで聞かれただけだ。なのにボクは、ボクについてを尋ねてくれる事が嬉しかった。
「……五月」
 答えれば、おねーさんはふわっと笑って「風薫る五月、緑の美しい季節ですね」そう言った。
「五月の誕生石は、緑の美しいエメラルドです。他にも、淡い緑色が美しい翡翠も、五月の誕生石なんですよ」
「へぇ。緑に共通してそれが誕生石になったの?」
「どうでしょうか。解りませんが、何だかそんな気もしてきますね」
 冗談で言ったのに、おねーさんもそれをきっと解っている筈なのに優しく受け答えする。否定も肯定もしない。
 この流れで、おねーさんの誕生月を、聞いてしまおうか。おねーさんと話す事は増えたが、内容は全て石の話だ。
 オバサンが居る時は時折談笑を挟むが、おねーさんのプライベートを聞いた事がない。ボクはおねーさんの事を何も知らなかった。そして知りたかった。
 だけど願いを行動に移すなど容易い事ではないと知る。
 こうして考えるようになったのは、ボクが自分の気持ちに気付いてしまったからか。気付かなければ、尋ねる事を躊躇う事などきっと無かっただろう。話の流れで聞くか、若しくは興味すら持たなかった。
「……おねーさんの誕生石は?」
 思い切って聞く。こんな事を尋ねただけで好意が悟られてしまう事はないだろうが、微かでも伝わってしまう気がする。だけどきっと杞憂だろう。意識するあまりそう思ってしまうだけだ。
「私は四月なのでダイアモンドですよ」
「へぇ、四月なんだ」
 そう言うとおねーさんは不思議そうに目を丸くした。
 ……何だ? 何か可笑しな事を言っただろうか。
 悟られぬよう気を配るあまり逆に失態を演じそうだ。何気無い表情の変化を見る度に、狼狽する。
 だけどおねーさんはまたふわっと微笑んだ。
「誕生石を聞かれたのに、四月、という所に反応するんですね。意外でしたか?」
 おねーさんの言葉に動揺する。聡いのか鈍いのかよく解らないが、結局両方なんだろう。だけど最終的に鈍いと取って良さそうだ。それに安堵する。
「まぁ、意外かな。冬生まれかと思った」
 適当に合わせておくが、実際嘘はない。
「残念、春生まれです。日生くんもですね」
 日生くんも、その言葉がやけに胸を温かくした。
 どうしよう。何でも無い事が、色んな事が、嬉しく思う。
 おねーさんと居ると嫌でも気付かされてしまう。
 つと顔を上げておねーさんを見れば、澄んだ瞳と目が合って、そして微笑まれる。
 温かい場所をくれた、最初の人。
 嫌でも気付かされる。
 ボクはこの人が……


 好きなんだと。



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