I love you に代わる言葉
*
店を出て数分、ボクは一緒に居た仲間と合流するでもなく、家路を辿る訳でもなく、適当にぶらぶらしていた。奴らはどうしたかという疑問も微かに過ぎりはしたけど、連絡する程気になる訳でもない。きっと何処かの店でいつも通りの事をしているだけだろう。しくじって面倒な事を起こさなければいい、そう心の中で悪態をつく。
今何時だ?
明かりの灯る街、行き交う人々、暗い空。街の様子から見て、二十時前後か。
立ち止まって空虚に空を見上げた。そこには、星の無い「無」の暗闇だけが見える。まるでボクの様だと、自嘲気味に笑う。
その時、チリリとした痛みが指先から走り、上げていた顔を下方へ移す。ボクは絆創膏の貼られた指先を見た。
手当てした女の顔が脳裏に蘇って、眉根を寄せる。経験した事のないそれ。胸中を駆け巡る言い様の無い感情。知らない感情に戸惑い苛立ちを覚える。
見つめていた右手をギュッと握った。
苛立ちを覚えながらも何処か可笑しくもなった。だってそうだろ? 先刻の情景を思い起こすと、可笑しな点しか見付からない。万引き犯と知っていながら、あの場に一人残した女。商品盗って逃げでもしたらどうするつもりだったのか。その万引き犯を手当てした女。本当に変わった女だった。
「ははっ……」
乾いた小さな笑いが漏れた。
温もりを知らないボクが“温もり”を感じる筈が無い。だって知らないのだから。別に不愉快じゃないと思える程度。あのおねーさんがした事も、言うなればそう、驚いただけだ……手当てされた経験が無いからね。
握られた右手を下ろし、立ち止まった足を動かそうとしたところで、ヴー……ッと、制服のポケットに仕舞ってあるケータイが振動した。ケータイを取り出し、ゆっくりと歩を進めながら受信されたメールを確認した。それはサイトから配信された意味も持たないメール。
居場所を確認する仲間からのメールでもない。遅い帰宅を心配する母親からのメールでもない。そしてそれらに落胆する心はもうない。それが寂しいとも、思わない。
ケータイを乱暴にポケットへ戻す。
初夏、温い風に当たりながらも冷えていく全身。ただ、その中で、右手の指先だけ妙に熱い気がした。
店を出て数分、ボクは一緒に居た仲間と合流するでもなく、家路を辿る訳でもなく、適当にぶらぶらしていた。奴らはどうしたかという疑問も微かに過ぎりはしたけど、連絡する程気になる訳でもない。きっと何処かの店でいつも通りの事をしているだけだろう。しくじって面倒な事を起こさなければいい、そう心の中で悪態をつく。
今何時だ?
明かりの灯る街、行き交う人々、暗い空。街の様子から見て、二十時前後か。
立ち止まって空虚に空を見上げた。そこには、星の無い「無」の暗闇だけが見える。まるでボクの様だと、自嘲気味に笑う。
その時、チリリとした痛みが指先から走り、上げていた顔を下方へ移す。ボクは絆創膏の貼られた指先を見た。
手当てした女の顔が脳裏に蘇って、眉根を寄せる。経験した事のないそれ。胸中を駆け巡る言い様の無い感情。知らない感情に戸惑い苛立ちを覚える。
見つめていた右手をギュッと握った。
苛立ちを覚えながらも何処か可笑しくもなった。だってそうだろ? 先刻の情景を思い起こすと、可笑しな点しか見付からない。万引き犯と知っていながら、あの場に一人残した女。商品盗って逃げでもしたらどうするつもりだったのか。その万引き犯を手当てした女。本当に変わった女だった。
「ははっ……」
乾いた小さな笑いが漏れた。
温もりを知らないボクが“温もり”を感じる筈が無い。だって知らないのだから。別に不愉快じゃないと思える程度。あのおねーさんがした事も、言うなればそう、驚いただけだ……手当てされた経験が無いからね。
握られた右手を下ろし、立ち止まった足を動かそうとしたところで、ヴー……ッと、制服のポケットに仕舞ってあるケータイが振動した。ケータイを取り出し、ゆっくりと歩を進めながら受信されたメールを確認した。それはサイトから配信された意味も持たないメール。
居場所を確認する仲間からのメールでもない。遅い帰宅を心配する母親からのメールでもない。そしてそれらに落胆する心はもうない。それが寂しいとも、思わない。
ケータイを乱暴にポケットへ戻す。
初夏、温い風に当たりながらも冷えていく全身。ただ、その中で、右手の指先だけ妙に熱い気がした。