I love you に代わる言葉


 今日も肌を刺すような暑さだ。涼を得たいが登校したばかりの教室が涼しい筈もなく。汗ばむ身体を不快に思いながら自分の席に腰を下ろした直後に、今井も登校し教室に入ってきた。
 そして何故か自分の席に着かずボクの傍へと歩み寄る。滴る汗の量に反比例し、その表情が明るいのは気のせいか。背後に向日葵が見えるようだ。
 視線をやや下に移せば、今井の鞄が目に入る。中身空なんじゃないのかと思わせる程スカスカで潰れた鞄をいつも持ち歩く今井が、今日は中身が詰まった鞄を手に持っていた。
 何事かと訝る気持ち半分、また馬鹿な事を思いついたのかと呆れる気持ち半分、両方が合わさった表情を向け、開口一番言った。
「……何その荷物?」
 すると今井は二カッと笑って鞄を持ち上げて見せた。
「ああ、今日、日生ん家で勉強教えて貰おうと思ってな。明日からテストだし。ついでに着替えも持ってきた」
「……は?」
 ちょっと待て。何かおかしい。色々おかしい。絶対おかしい。特に最後の方。
「誰が来てもいいって言ったのさ。昨日いいなんて言わなかっただろ」
 というかあのメールに返信すらしていない。
「は? お前、来るな、とも言わなかったじゃねーか」
 今井はそう言って、何言ってんだこいつ、とでも言いたげな視線を寄越してくる。いや、あのさ……同じ視線をボクも送りたい。何故そう自分に都合良く解釈出来るんだ。
 それにさっき最後に言った言葉は何だ。百歩譲って来るのを良しとしたとしよう。だけど着替えを持ってくる必要はあったのか? そのまま泊まるつもりで来たのか、それとも、制服から普段着に着替え部屋で寛げるようにとの計らいか?
 ……いやいやいや。どっちにしろおかしい。何故ボクの家でこんな馬鹿を寛がせてやらなきゃならない。
 暫し呆気に取られポカンとしていた。我ながら本当に情けない顔だったと思う。
 今井はボクの無言をまたも都合良く解釈し、「じゃあ今日学校終わったらお前ん家直接行こうぜ」なんて言って笑っている。そしてそのまま自分の席へと行ってしまった。
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