I love you に代わる言葉
 扉を開けてそれが閉まらないよう寄り掛かる。くいっと顎をしゃくって今井に先に入る様に促せば、今井はおずおずと中に足を踏み入れた。何とも言えぬ表情だ。緊張している風でもなければ嬉々としたものでもない。
 靴を置くスペースがかろうじて設けられているだけの狭い玄関。尤も、使用者は今となってはボク一人だけだからとりわけ不便を感じもしなかったが。
 母親が家に居た頃はそれはもう靴が散乱していて邪魔だった、とふと思い出した。
 靴を脱いで玄関に上がった今井を確認して、ボクも後から続く。脱ぎっ放しで丁寧に揃えられていない今井の靴を一瞥して、今井を表した脱ぎ方だなと思った。
 今井は眼前に広がる閑散とした薄暗いリビングを見てただ突っ立っている。何をしているんだこいつ。怪訝な表情でその背中を見つめた。いよいよ奥へ行くように背後から声を掛けようとした所で、今井は不意に口を開いた。
「……お前、一人暮らしなのか?」
 ボクを振り返る事無く問う。背後に居る為今井の表情は見えない。
 全方向へ顔を動かして室内を観察しているようだった。
< 94 / 415 >

この作品をシェア

pagetop