I love you に代わる言葉
 観察しそこから何を感じ取ったのか、今井の心中など読める筈もないから解りかねるが、ある程度推測は出来る。きっとあまりに閑散とした部屋だから今井の中で最終的にその判断を下し問うに至ったんだろう。いや、こいつは単純だから「考えた末の結論」ではなくパッと見て一番最初に浮かんだ考えなのかも知れない。家具はある程度揃っているが、部屋の様子からボク以外の人間が住んでいるとは誰だって考えにくい室内だからな。だって家具が置いてあるだけだ。畳まれた、或いは脱ぎ捨てられた衣類が置いてある訳でもない。少しだけシンクに洗い物が残っていたり、洗われた食器が水切り籠に置いてある訳でもない。ゴミ箱にゴミが溜まっている訳でもない。おまけにカーテンは締め切られている。
 ……要するに、使用された形跡などない。どんなに綺麗に片付けられた家でも、ある程度生活感を感じさせるものだが、此処はそれが皆無。人の居る気配など感じられなくてきっとこいつはそう考えたに違いない。
「……襖の奥がボクの部屋だ」
 質問には答えず、そう言った。
「え? ああ……」
 今井は一度ボクを振り返ったが、すぐに襖へ目をやった。今井はまだ何かを考えているようだった。合点がいかないのか、単に違和感を拭えないのか。恐らく両方だろう。その横顔は不可解さに包まれた表情をしていた。
 リビングに立ち尽くし未だ動く気配を感じられなくて、ボクは面倒臭くなった。溜息をついて横から今井を追い越すと、ボクはスタスタと自室へ向かう。すると今井は慌てたのかすぐに後ろをついてきた。
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