I love you に代わる言葉
 部屋へと入りベッドの上に鞄を無造作に置くと、そのままそこに腰を下ろし、傍に置いてある扇風機の電源を点けた。一応首振り機能にして今井にも風が送られる様にしてやる。
 今井はと言うと、テーブルの近くに畏まる様子も無く胡坐をかいて座り込んだ。
「何か日生らしい部屋だけど、なんもねーな」
 部屋を見渡しながら今井はポツリと零した。
「必要最低限のものだけで十分だ」
「それにしたって無さ過ぎだろ」
 そう言われて改めてボクも部屋を見渡す。
 確かに無い方ではある。ベッドと木棚と、そこに入っている本と、小さな四角いテーブルしかないからね。あとは、アメシストの群晶だ。チラッとそれを見てすぐに視線を逸らした。
 ふと考える。一般的に高校生男子の部屋には何があるんだろう、と。ボクの部屋に何も無いと言うのだから、此処に無い物が今井の部屋にはあるのだろう。そう思い、「何が欲しかったのさ」と尋ねてみると、
「……ゲームとか?」
 という返事が返ってくる。ボクは眉を寄せ目を細めた。
「アンタ勉強の為に此処に来たんだろ。何ゲームやろうとしてるんだよ」
「い、いや、合間にだよ! たまには息抜きも必要だろ!」
「息抜きが必要な程長時間、此処に居させる気はないから安心しなよ」
 そう言って木棚から本を一冊取り出し、ボクはそれを開いた。
「解ってた事だけど、お前ってホント冷たい奴だよな……」
 今井はその金髪をガシガシと掻きながらボソッと言った。
「何とでも言いなよ」
 冷ややかな視線を送った後、手にした本に視線を落としながらそう言った。
 今井はわざとらしく溜息をつくと、面倒臭そうに鞄から勉強道具を取り出していた。本当に持ってきていたのか、と少なからず驚いた。



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