I love you に代わる言葉
「そういやー……、」
 呟かれた言葉に反応してボクは今井を見た。
「同じ学年に『笹山』っていたよな? 姉弟かな?」
「さぁね。別に特別珍しい名字でもないから違うんじゃない」
「でもそう多くもないんじゃないか? 実際周囲に一人しか居ないしな」
「男? 女? 名前は?」
「男。名前は確か……“マコト”だった気がする」
 ササヤマ マコト……。
 名を心の中でなぞってみたが、思い当たる男は居なかった。元々他人に関心も無く友達と呼べる人間の少ないボクが考えた所で、答えが出るとも思ってないけど。
「そいつの容姿は?」
「カッコイイぜ。髪は染めてなくてピアスつけてるな」
 何とも抽象的な。
「そんな奴ゴロゴロいるだろ」
 言葉通りそんな奴は沢山居る。ボク等が通う高校は誰でも行ける様なバカ校だ。不良と呼ばれ素行の悪い者、外見が無駄に派手な者、そんな奴等が大半を占めている。だからピアスつけた奴など珍しくもなければ特定出来る要素でもない。そこそこ外見の整った奴だって多い。
「まぁでも俺はそいつを知ってるから聞いてみてもいいんじゃねーか?」
「仮に弟だとしてどうするのさ」
 問えば今井は腕を組み「う~ん」と考える素振りを見せた。
「まぁそれとなく情報を聞き出す。いい奴そうなら協力を仰ぐ、とか?」
 仰ぐ、とかそういう単語知ってたのかこいつ、とどうでもいい事が頭に浮かんだが、取り合えず黙っておく。
「別にいいよ、そんな事しなくても。ボクは別に、どうなりたいとか考えてない」
 そう言って目を伏せ、床を無意味に眺めた。
 そう、これは強がりじゃなく本心だった。おねーさんと普通に話が出来るだけで良かったし、もう十分にボクは、おねーさんから色んなものを与えられた気がする。幸福とは言えぬまでも、温もりを知る事は出来たんだ。それはこんなボクには過ぎたるものだ。
「……彼氏がいなくても、か?」
 その問いにやや間を置いた後、小さく「……ああ」と答えた。



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