愛してもいいですか
「弊社の社長が言葉が過ぎたようで申し訳ありません。ですが、最初にこちらを軽んじるような発言をしたのはそちらです。……それは分かりますよね?」
「秘書までこちらを馬鹿にするのか!?そうくるのなら今後の取引も考えさせて貰うぞ!」
「脅しですか?それでしたらこちらにも、考えがございます」
そして笑顔で俺がスーツの内ポケットからすっと見せたのは、薄型の小さなボイスレコーダー。それを見た途端その顔はザーッと青ざめ、一気に勢いをなくした。
「ろ、録音していたのか……!?」
「先ほどの発言、世間一般的にはセクハラですよねぇ。ましてや『愛人に』なんて、奥様に聞かれたらどうなることやら」
「なっ!?そ、それは……」
「こちらとしても揉めたいわけではありませんから。本日のことは無かったことにして、これからも円滑なお付き合いをどうぞよろしくお願いします」
納得したくはないけれどしなければ、といった様子でぐっと悔しそうに堪える柴田社長に、録音機をポケットに戻すと後ろを振り向く。
背後では落ち着いた様子でフキンで口元を拭う架代さんの姿。
「話も終わったことですし、今日はこれで失礼します。日向、行くわよ」
「はい。ではまた、失礼します」
ちゃっかり器を空にして食事を終えた架代さんは、荷物を手に立ち上がり歩き出してしまう。それを追うように、俺も小さく頭を下げると立ち上がり部屋を出た。