愛してもいいですか



料亭を出て、近くの駐車場に停めてあった車に乗り俺と架代さんは二人で会社への道のりを行く。

無言のまま隣に乗る彼女は、揺れる車内でも慣れた手つきでコンパクト片手に軽く化粧を直し終えると、パチンとコンパクトを閉じた。



「あれ、いつも持ち歩いてるの?」

「え?」

「録音機」



思い出したように唐突に投げかけられる問いに、俺は「あぁ」と思い出し、先程同様胸ポケットからレコーダーを見せた。



「神永さんから貰ったんです。『いつ何が起こるか分からないから常に忍ばせておくように』って。まぁ、さっきのはハッタリで実際に録音はしてないんですけど」



『社長……ましてや女性となれば、いつどんなことが起こるかわからない。だから念のため、いつでも操作出来るように忍ばせておくように。必要ないならそれに越したことはないから』



神永さんから業務の引き継ぎの際に、渡されたボイスレコーダー。こんな形で使うことになるとは思わなかったけれど……ハッタリに怯むような相手でよかった。

こんなものを持ち歩いているとは知らなかったのだろう、架代さんは俺の手からボイスレコーダーを受け取り、まじまじと見る。



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