愛してもいいですか
「……腹立ったり、しないんですか?」
「え?」
「七光りって言われたり、立場を軽んじて見られること」
アクセルを踏みながら問いかけた言葉に、彼女の顔は見えない。
「別に。親がいなければ今の自分の立場がないことも事実だし、年下の女相手となれば嘗めた態度とられても仕方ないことだとも思う」
「……仕方ない、ですか」
「相手の言葉にいちいちへこむのも、疲れるのよ」
気にしていない、へこんでいない訳ではないのだろう。だけどそういう弱さを見せる人ではないから、上手く隠してしまう。
社長と秘書という立場でこれだけ近付いて、ようやく知ることが出来るんだ。
「……はぁ、お腹空いた」
「え!?」
すると唐突にこぼされた一言に、ついぎょっとしてしまう。
「さっき食事、全部食べてませんでした!?」
「そりゃあ食べるわよ、一応。残したらもったいないし。でも味も相手も悪かったからか、全然食べた気がしなかったのよ」
寧ろあの空気で完食出来たほうがすごいと思う……。はは、と思わず苦笑いで車を走らせる。
あんな言い方をされたばかりだというのに、怒るよりも逆に言い返すし、あれだけ食べて食べた気がしないって……なんていうか、図太いというか。