愛してもいいですか



「どれにしようかなー……餡子はいつも日向が買ってくるし、カスタード、でもイチゴクリームもいいかも……」

「欲しいもの全部買ったらいいんじゃないですか?」

「それはダメ。今食べられるのは一個だけだもの」



自分でそう言っておきながら、でもどうしようと頭を悩ませる。こういう優柔不断なところはちょっと、普通の女の子なんだと思う。



「あーダメ!抹茶クリームがダブルクリームか選べない!」



迷った末に結局決められてないし……。

頭を両手で抱える架代さんの姿は、先程までのキリッとした顔つきとはまるで違う。そんな姿がまた可愛くて笑えてしまう。



「じゃあ俺が抹茶クリーム買うんで、架代さんがダブルクリームにしたらどうですか?で、半分こしましょ」

「えっ!い、いいわよ、そんな……子供じゃあるまいし」

「大人だって半分こくらいしますよ。ね、そうしましょ。すみません、たい焼きの抹茶クリームとダブルクリームひとつずつ」

「かしこまりました」



案の定渋る彼女を丸め込み、店員が手早く商品を入れた紙袋を手にとると支払いをしようと財布を取り出す。けれどそれより早く、架代さんは千円札を取り出し支払いを済ませてしまう。



「いいんですか?」

「えぇ」

「ありがとうございます、ごちそうさまです」



上司だからなのか、単に割り勘が面倒なのか……こうも素早く支払いを済まされてしまうと、正直男としては複雑だ。

他の男の前でもこうなのだろうか。だとしたら、彼女が今だに結婚出来ない理由が仕事以外の点でも分かる気がする。


< 108 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop