愛してもいいですか
「あ、架代さん。口にクリームついてますよ」
「え?どこ?」
「ここ、」
余程夢中になって食べているのか、その口の端には小さくついた抹茶色のクリーム。
まるで子供みたいだ。そう思いながら俺は、助手席の彼女へ顔を近づけ指先でそっとそのクリームを拭った。
一瞬触れただけで感じられる、その肌の柔らかさ。近付いた距離に、またバラのような匂いが香る。
「はい、取れましたよ」
いきなり近付きすぎたのか、架代さんは驚いたように目を丸くする。
また怒られるだろうか、ところがそんな俺の考えとは裏腹に、その顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。
……照れて、いる?
不意打ちに弱いのか、耳まで真っ赤になる彼女に込み上げるのは、言葉には表し難い愛おしさ。
「……あーもう、なんなんですかその反応」
「え!?あ、いや、いっ今のはその、照れたわけじゃなくてっ……」
真っ赤になった顔、更に繕えていない言い訳。それらがとても可愛らしくて、心の奥をくすぐる。
「……可愛すぎです、ほんと」
抑えきれずこぼれた言葉に、ますますその顔は真っ赤に染まる。
社長秘書は、大変だ。それもこんな気の強い女社長の秘書となれば、尚更。
だけど、俺は思うよ。彼女のこんな可愛い顔を知らないなんて、みんな絶対損してるって。
そして、そんな表情を見られる俺は幸せ者だって。