愛してもいいですか
6.その、眼差し
私は社長で、彼は秘書。
だから秘書としての仕事に、彼なりに工夫を加えているだけ。それだけのことなのに、いちいちその言動を真に受けてしまうなんて。
『架代さんに“ありがとう”って言って貰えて、嬉しいです』
あの言葉に、特別な意味を求めてしまうなんて。私はなんて、バカなんだろう。
「資料1と2を両面コピーして、部屋に戻ったらまとめて……」
パーティの夜から数日が経った、いつもと変わらぬ平日の午後。コピー機のある五階のフロアへ降りてきた私は、手元の資料を見ながら一人確認するように呟き廊下を歩く。
けれど、心の中をめぐるのは先日のあの複雑な想いたちばかり。
……って、なんで日向のことなんて気にかけているの!私!
別に、日向と私の間にあるのは『仕事』という関係で当たり前だし、……私には、松嶋さんがいるし。
『また連絡します』と笑っていた彼の顔を思い浮かべながらも、やはりちらつくあの面影。
「……でねー、その時部長がこう言ってて、」
「あはは、それ本当ー?」
「……ん?」
すると、コピー機の置いてあるフロアの一室では、聞こえるなにやらにぎやかな声。
何事だろうと部屋を覗き込めば、コピー機を囲んでキャッキャと話す女子社員が二名と、日向の姿があった。