愛してもいいですか
「あれ……」
すると目の前、私の自宅であるマンションのエントランス前の階段には腰掛ける姿がひとつ。
それは、日中と同じく青みの強い紺色のスーツを着た、相変わらずはねた栗色の髪の男……日向だった。
会社からそのまま来たらしく、その足元には茶色い革のビジネスバッグが置かれている。
「日向、どうして……?」
「携帯、忘れてませんか?」
「え?……あ」
私の白いスマートフォンをチラリと見せた日向に、自分のバッグの中を探るとそのなかには仕事用の携帯しか入っておらず、会社に忘れてしまったことに気付く。
どうやら日中松嶋さんと連絡をとり、デスクに置いたままで帰って来てしまったらしい。
「携帯忘れて気付かないなんて、本当に最近の若者ですか?」
「悪かったわね。元々外ではあんまり携帯触らないのよ」
からかうように笑いながら、日向は私へ携帯を手渡すと、その場で立ち上がる。
「……って、わざわざこの為に待っていたの?」
「はい。来てみたら部屋の電気ついてなかったから、外出してるんだと思って待ってました」
日向の退勤時間は、遅くてだいたい二十時頃。ということは、少なくとも二時間近くは待っていたのだろう。
まだ秋とはいえ冷え込む夜、こんな中で待っていたなんて……。