愛してもいいですか



夢を見た。それは今から四年ほど前、私が二十三歳の頃。

社長として不慣れな仕事に動き回っていた、今より少し若い私。その頃私には付き合って半年の彼氏がいて、仲も良かったし好きだったから、この先結婚出来たらいいなって思っていた。

けれど、相手の気持ちが違うと知ったのはある日の突然のこと。



きっかけは、些細なことからの喧嘩。そこから大きな喧嘩に発展し、言い合いになった。



『どうせお前なんて、“社長”って肩書きがなければ何の魅力もないくせに!!』



気持ちの高ぶった彼から言われた、一言。そのたった一言は、私の心を冷静にさせるのに充分だった。

思ったのは、『やっぱり』。



学生の頃から、社長の娘だからと金目当てで近づいて来た人は沢山いたから、気持ち的には慣れていた。

でもそれまで彼はそんなそぶり一切なくて、この人なら信じられるかもしれないって、そう思えた人だった。

だけど、やっぱり。いくら私が想っても、この人が見るのは“私”じゃないんだ。どんなに愛を囁いても、誓っても。

そのことだけが、ひどく悲しかったことだけを、覚えている。



だからこそ、そんな私に松嶋さんのような人がいることは夢みたいだった。嬉しかった。

私のことを見てくれる、そんな彼の手を振り払ったのは自分。



『あの日宝井さんの選んだものが答えなんだと思います』



それが、私の答え。

あれから半月経った今も、時折思い出す彼の悲しい表情と不安感。



『あなたの選んだものが正しいはず。俺は、そう信じています』



けれどその度、同じように響くのは、穏やかで優しい声。





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