愛してもいいですか
「よくこっち歩いてますねぇ、暇なんですか?」
「そんなわけあるか。英三社長に頼まれて来ているんだ」
「へぇ、大変ですね」
架代さんの前では常に敬語で優しげな態度の神永さんも、普段俺には敬語もなければにこりともしない。
親しくいられている証拠なのだろうけれど、この人もそこそこ猫かぶりだと思う。
「架代社長とは仲良く出来ているか?」
「まぁそれなりに。この前も膝枕してあげましたし」
「は!?」
『どうしてそうなる』と言いたげに驚く神永さんに、俺はははっと笑う。
「そういえば、先日のエムスターの件ではありがとうございました。架代さんへの連絡に送迎までしてもらって」
「あぁ、別にいいが……ひとつ、聞いてもいいか?」
「どうぞ?あ、神永さん下行きます?」
「あぁ」と頷く神永さんに、俺はちょうどついたエレベーターの下りボタンをカチ、と押す。
「あの日もしかして……社長、男と出かけてたりとか……」
「えぇ。してましたねぇ」
「……やっぱりか……」
はぁ……とまいったように肩を落とすのもそのはず。あの日のことは粗方架代さんからも聞いたけれど、社長に連絡をしない俺に痺れを切らした社員からの連絡を受けた神永さんが、架代さんへ連絡をし『取引先がなくなってもいいんですか』と言われたことで、焚き付けられ、デートをほっぽり出して来たと。
知らなかったのだから仕方ないけれど、結果としてデートを断るきっかけを作ってしまったのだから。