愛してもいいですか
「俺、元々特に目標とかもなく、なんとなくこの会社に入ったんです」
「社長の前で正直ね」
「あはは、すみません」
楽しいことばかりを優先に過ごしていた、大学時代。その先に見ているものも特別なくて、でも生活するために就職はしないと。そんな気持ちで励んだ就職活動。
幸い愛想はいい方だし、それとないことを並べて、受かることが出来た。
「とりあえず働くのに、どこの会社でもよかった。それで受かったのが、この会社です」
「……まぁ、そういう学生が多いのも事実よね。こちらからすれば、働くうちにやり甲斐を見つけてくれればいいんだけど」
「えぇ。俺はそれで、出会っちゃったんです」
適当な気持ちでこの会社に入社して、三年ほどが経った頃だっただろうか。出会ったのは、一人の女性。
「俺が営業部にいた時に出会った人なんですけどね、俺より年下なのに仕事もテキパキ出来ちゃう人で。どんなことがあってもめげなくて、最初はすごいなーって感じだったんですけど」
俺がいた、第一営業部の隣の第二営業部。そこにいた彼女は、いつも一人黙々と、仕事に打ち込んでいた。
先輩であろう年上に理不尽なことで怒られ、無理に仕事を任せられて、いびられていることは誰から見ても明らかで。それでも、彼女は落ち込むことも泣くこともなく、毎日働いていた。
そんな彼女を見つめるだけ。すごいな、俺なら耐えられないだろうな、って。他人事のように。