愛してもいいですか
「架代さん、どうかしましたか?」
「えっ、あ……その、」
私がそれまで見ていたことになど気付くこともなく、慌ててこちらへ駆け寄る日向に、つい口ごもりながら先程まで日向と話していた彼女の方を見た。
同じくこちらを見ていた彼女とバチッと目が合う。瞬間、ほんの少しピリ、と漂うなんともいえない緊迫感。
それとともに、先程まで笑っていたその顔からは笑顔が消え、睨むようにこちらを見据える。
「……お疲れ様です、社長。じゃあ日向くん、私はこれで」
「あっ、はい」
すると彼女は言葉少なく私へぺこ、と頭を小さく下げるとカツカツと足早に部屋から出て行く。
隣を通った瞬間、バニラのような甘い香水の香りがほんのりと香った。
……行っちゃった。ていうか私、今……睨まれた?
私が言うのもなんだけど、気が強そうな子だったもんなぁ……。
「日向、今の人って……」
「え?あぁ、西さんですか?第一営業部の課長ですよ。俺が営業部の頃からよく面倒見て貰ってて」
「へぇ……」
そういえば日向、元々は営業部の部署専属の秘書だったんだっけ。
見た目若そうなのに課長……すごいのね。納得しながら彼女のいなくなった廊下を見た。
「で、架代さんはどうされたんですか?あ、もしかして寂しくなっちゃいました?一緒にいてあげたいところなんですけど、俺にも会議が……」
「違う。あんたが置いていった書類、一枚抜けてたのよ」
「え!?どれですか?」
またふざけたように言う日向に呆れながら、どの書類がなかったかを説明する。
一枚抜けていた書類は日向が持っていた資料に一枚紛れ込んでしまっていたそうで、すぐ私の手元へと渡された。