愛してもいいですか
その日の夜、腕時計の短針が『6』を指す時刻。仕事を終えた私は椅子から立ち上がると、荷物の入った黒いショルダーバッグを手にとった。
「じゃあ私、先にあがるから」
「はい、お疲れ様でした。お気をつけて」
日向にそれだけを言うと、足早に後にする社長室。そしてエレベーターのボタンをカチ、と押すと一気に息を「はぁぁ〜……」と吐き出した。
なんとか今日も一日が終わった……。
あの後から一向に気持ちは上がらず溜息ばかりが出ていたけれど、日向が会議を終え他の仕事も済ませ社長室に戻ってきたのは、つい二時間ほど前だ。
おかげで大した会話もせずにこの時間を迎えられたけど……また明日からも気まずいのかと思うと、余計気が重くなる。
日向は相変わらず笑顔のままだったけど……あの笑顔も、彼がここにいることも、全ては彼女のためだったのかと思うとまた胸が痛む。
「……はぁ、」
早く帰って、今日はゆっくり休もう……。
そうエレベーターに乗り、下の階へとおりていく。すると途中、四階でポン、と止まった。
誰か乗ってくるのかな、そう開いたドアのほうを見ると、姿を現したのは今朝も目にしたばかりの顔……西さんだった。
な、なんでこのタイミングで……!
思わずぎょっとしてしまいそうになりながら、平静を装う。