愛してもいいですか



「お、お疲れ様……」

「お疲れ様です」



彼女も恐らく帰るのだろう。黒のパンツスーツにグレーのコートを羽織り、黒い有名ブランドのマークがついたトートバッグを持っている。

一言挨拶を交わしただけで、それ以降流れる無言の時間。エレベーターが四階から一階につくまでの、ほんの数分もないその時間がとても長く感じられる。



く、空気が重い……。

そしてポン、と鳴る音とともに開くドア。ようやく着いた一階へ、逃げるように早足で出た、その時。



「あの、宝井社長」



突然その少し高めの声に名前を呼ばれ、私はエレベーターを出てすぐの位置でピタッと足を止めた。



「な……なに?」



必死に引きつった笑顔で問いかけると、西さんもエレベーターから降り私の前へと立つ。



会社のエントランス奥にある、このエレベーター。いつもならこの時間帯、もう少しひと気のある場所にも関わらず、今日に限って辺りにひと気はない。

そんな中で私の隣に立つ彼女は、私より十センチは低く本当に小柄な人なのだと知る。



「ひとつ、お訊ねしてもいいですか?」

「え……えぇ、」



じっ、と見つめるその目は先程の秘書室での時と同様、真っ直ぐ強気なもの。



「どうして、日向くんなんですか?」

「え……?」



『どうして』……?その言葉の意味を問うように首を傾げる。



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