愛してもいいですか
「……架代さん?」
突然響いたその声に、ふと我に返る。顔を挙げるとそこには、驚いた顔でこちらを見る日向がいた。
「なにしてるんですか?とっくに帰ったはずじゃ……」
「え……あ、うん……」
見れば、壁の時計は二十時過ぎをさしていることから、二時間近くもここでぼんやりとしていたのだと気付く。どうりで日向も驚くわけだ。
「あ、もしかして俺のこと待ってました?もう、帰りにデートしたいならそう言ってくれればよかったのに」
「は!?そんなわけ……」
またふざけたように言いながら、ふっと笑う。その笑顔がいつもなら嬉しいはずなのに、今は心を痛くする。
胸の奥が、締め付けられる。苦しい。
だけど、ふたりにとって私が邪魔なら、日向にとってこの関係がしがらみとなるなら。
「……えぇ、日向を待っていたの」
否定しようとした言葉を飲み込み、小さく頷く。
「え……?」
「ちょっと、来て」
「え?ちょっと、架代さん?」
そして日向の腕をぐいっと引っ張ると、すぐ近くのミーティングルームへと向かう。
ガチャッと開けたドアの向こう、小さな室内に少人数でのミーティング用の二人掛けのソファがテーブルを挟んで二つ向かい合っているだけの部屋。