愛してもいいですか



「もう、どうしたんですか?いきなりこんなところで……」



バタン、とドアが閉じられたその瞬間私は日向の顔を両手で包むようにして掴むと、少し背伸びをしてそのまま日向にキスをする。

勢いよく触れる唇。薄い唇は柔らかく、近付いた距離にふわ、と日向の匂いがした。



唇を離しその顔を見れば、先程以上に驚き見開かれる目。なにが起きているのか、思考がついていかない様子で身動きとれずにいる。



「架、代さん……?」

「……お願い。抱いて」

「え……?」



顔に触れたまま、見つめて言う私に日向は戸惑ったように手の行き場を探している。



「寂しいのよ、独り身だから。たまには相手くらいしてくれてもいいでしょう?」

「……どうしたんですか、いきなり。らしくない冗談なんて……」

「冗談?あんたは私が冗談で人にキスするとでも?」



その目から本気なのだとさとり、戸惑い、ぐっと握られる拳。



「社長命令よ。逆らったら……分かってるわね?」



真剣な声で囁く『社長命令』。瞬間、日向は私の両手を掴み頬から引き離す。そして、しっかりと私を見つめ返した。



「……本当に、いいんですね?」



問いかける目が、“男”に変わった気がした。

えぇ、と頷くと、今度はそちらから顔が近付きキスをする。深いキス。舌を絡ませ、そのまま背後のソファへ座らせると私の体を押し倒す。



「……ん、ふ……」



息も出来ぬほどのキスの中、ほのかな香水と肌の匂いが混ざり合い、私の中へ流れ込む。

その唇は大きなピアスのぶら下がる耳たぶを甘く噛み、髪の合間から首筋を舌でなぞった。全身で感じる彼の感触と体温に、込み上げるのは愛しさとともに、切なさ。


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