愛してもいいですか



日向……。

どうなったって、いい。進もうと止まろうと、どちらにせよ私は最低になる。彼の中で、最低な女になる。

そして指先はシャツの中へ入り込もうと、私の脇腹へそっと触れた。



「んっ……、」



日頃人に触れられることのないその場所に余計に神経は敏感になり、思わず漏れた声。その声に手はピタ、と止まる。



「……日向?」



小さく名前を呼ぶと、その顔は首筋から上げられるものの俯いたまま。



「……ですか、」

「え……?」

「出来るわけ、ないじゃないですか……」



微かなその一言ともに、見えたのは泣き出しそうなその顔。今まで見たことのない、想像すらもつかなかった表情に強く心がズキッと痛んだ。



どうして、そんな顔をするの。拒否というより、傷付いたかのような、悲しい顔。

そんな顔をされたら、私まで泣きそうになる。



そんな気持ちを振り払うように、私は日向の体を右手で押し返しどかせると体を起こした。



「あんたの気持ちはよく分かったわ。そこまでしたくないならしなくていい」

「架代さん……」

「その代わり、本日をもって秘書はクビよ。明日からは、他の部署の秘書に戻って貰う」



顔も見ずに服を整えながら立ち上がり、床に落としていたらしいバッグを手に取る。



「待ってください、少し話をっ……」



背中に少し情けないその声が響くけれど、それ以上聞くこともなく私は部屋を後にした。

バタン、と閉じたドアの向こう、その表情は見えない。


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