愛してもいいですか



「……昨日のこと、本気だったんですね」

「当然でしょ。わかったら早く市原さんと引継ぎしておいてね」



じゃあ、とエレベーターを乗ることを諦め、すぐ横にある階段へ向かおうと歩き出す。

ところが、そんな私の腕をその手はぐいっと強く掴んだ。



「なに?」

「あ……いや、その、」



何か言いたいことがあるのかと思えば、なにも言えず口ごもってしまう。日向らしくないその態度に、動揺しているのが顔を見なくても伝わってくる。



「用がないなら離してちょうだい。忙しいの」



けれど、その腕すらも振り払い冷たく言うと、足早に日向の元を離れた。



日向に冷たく言うことなんて何度もあった。慣れているはずなのにどうしてか、また涙が出そうになる。

我慢、我慢。化粧が落ちる。社内で泣くわけにはいかないんだから。ぐっとこらえて、歩き続けた。



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