愛してもいいですか



そしてその日から私の秘書は市原さんとなり、いつも通りの日常が戻ってくる。



普通に仕事をして、過ごすだけの日々。時々はまた結婚相手でも探しに婚活パーティに行こうかと思ったりもしたけれど、どうも気が向かない。

それに、行っても無駄な気がする。きっと今の自分は誰にも心が向かない気がするから。



なにをしていても、いちいちあのへらっとした笑顔が思い出されて、また落ち込んでしまう。

仕事をして、帰って、また日に日に散らかっていく部屋。物で、埋まっていく。彼の痕を隠すように。






「しゃ、社長。こちら、総務部からの書類です。出来る限り早めにご確認いただきたいとのことで……」

「どれ?見せて」



それから二週間ほどが経っただろうか。ある日の夕方、もうすぐ定時を迎えようとしていた社長室で、私は市原さんからおどおどと差し出された書類を手にとり内容を確認する。

先月までの損益報告書とその他実績報告か……。比較するのに昨年のデータがほしいわね。



「同じ報告書の昨年分があるでしょ?それくれる?」

「えっ?あ、えとっ……」



私の言葉に市原さんは慌ててバタバタと棚や引き出しを探し出す。

……って、用意していないのね。呆れたように小さな溜息をついて、書類やファイルがごちゃごちゃと置かれている自分のデスクの上を見てふと気付く。



……机の上、散らかってきたなぁ……。

今まで神永も日向も、言わなくても綺麗に整理整頓してくれていたし、書類も全て用意してくれていた。とても気を利かせて仕事をしてくれていた。

けれど現状、市原さんは常に余裕がなくバタバタするばかりで私のことまで手が回らない。結果、デスクの上はこの有様だ。



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