愛してもいいですか
「ん?どうかした?」
「この書類なんですけど、確認したい点があって……」
それは、女性社員と話す日向の姿。
相変わらず高い身長に、細い体。ふわふわとした栗色の髪と、遠目でも目につく柄物のシャツ。
……久しぶりに、見た。
同じ社内にいるというのにこの半月見なかった顔は、当然代わりなくいつも通り。
女性社員と何かを話し、にこりと笑い、彼女の肩をぽんぽんと叩く。それだけの、本当にいつも通りの態度をして、日向はこちらに気付くことなく総務部のフロアへと入って行った。
変わらない。相変わらずチャラチャラして、相変わらずへらへらと笑っている。
なにも、変わらないんだ。落ち込んでいるのは私ひとり。なんでよ、どうしてよ。そう思うと同時に、当然だとも思う。
だって日向にとって私はただの社長でしかない。一緒にいたのは、仕事だから。社長秘書が、社長に異動を命じられたから、異動しただけ。それだけのこと。
寧ろ、あんな最低なことをした社長の元なんて、離れられて安心しているかもしれない。
そう。そうよ。言い聞かせるように心の中で呟くものの、込み上げる実感にまた涙が出そうになる。
……総務部に行くの、やめよう。
日向と顔を合わせたくない、気まずさと悲しさからそう逃げるようにエレベーターへと乗り直し、社長室へ戻った。