愛してもいいですか
ガチャ、と開けた社長室の中。市原さんは早くも帰ったのだろう、そこには既に誰もいない。
部屋に一人になった途端、誰にも見られないという気の緩みからかポロ、と涙がこぼれ出す。
あぁ、やっぱりダメだ。
諦め納得したふりをして、自分に言い聞かせている。だけど本当は、つらい。悲しい。
だって、嬉しかったの。日向が私を受け止めて、抱きしめてくれたこと。どんな私でも好きだって、笑ってくれたこと。
日向が笑うと安心して、その言葉と優しさに私は変われたの。
嬉しい気持ち、愛しい気持ち、それらを『彼の仕事』の一言で片付けるなんて悲しすぎる。
こじつけてクビにして、自分から突き放して、だけどいつも通りの彼を見て悲しいだなんて、なんてワガママ。だけど、それでも涙は止まらない。
「……う、っ……ぐす、」
止まらない涙を両手で拭っていると、突然背後のドアがコンコンと鳴る。
「神永です。架代社長、いらっしゃいますか?」
「神永……?」
聞こえてきた神永の低い声に『どうして?』と思うと同時につい応えてしまう。ところがその声のせいで、何かを察したのか神永はこちらの許可を待つことなく自らガチャッとドアを開けた。
「架代社長、どうかなさったんですか……、!?」
こちらを見た途端、ギョッと驚くその顔。
まさか社長室の真ん中で、私が大泣きしているなど想像もしていなかったのだろう。神永は慌ててこちらへ駆け寄った。
「ど、どうされたんですか!?」
「神永……」
「そんなに泣いて……なにかあったんですか!?あれ、日向もいない……」
眼鏡の向こうのツンとした目は、驚きに揺れ、辺りを見渡す。
「あんなやつ、クビよ……」
「え?」
「クビよ、クビ!クビーーー!!!」
八つ当たりのようにキーッと声を上げる私に、神永はますます意味が分からなそうに首を傾げた。
いないわよ、日向なんて。そんな諦めた言い方をしながら、一瞬期待した。コンコンとノックされた音に、もしかしたらなんて僅かな期待をしてしまった。
そんな自分が腹立たしく、余計に涙が出た。