愛してもいいですか



とりあえず一度落ち着くようにと神永になだめられ、ようやく涙を止めることが出来た私は今日はもう仕事にならないだろうと判断し、仕事を切り上げることにした。

神永はそんな私についててくれ、車で送るからと一緒に会社を出てくれた。

すると道中、神永の『寄り道して行きませんか』の言葉に小さく頷くと、やって来たのは小さな古民家のような建物。



「ここは……?」

「和風カフェ、ですね。古民家を改築して造った喫茶店だそうで」



神永に続いて店頭にある紺色ののれんをくぐると、店員の「いらっしゃいませ」の声に出迎えられた。

通された奥のほうの個室は、畳が敷かれ、茶色い小さなテーブルと赤い座布団を黄色の電球がほんのりと照らしている。



「素敵な雰囲気ね、落ち着く」

「でしょう?ここの抹茶とたい焼きは絶品ですよ」

「じゃあそれで」



神永は何度か来ているらしく、慣れた様子で店員へ注文を通す。

畳の匂いがいい匂い……。窓から見える中庭には見事な松の木と真っ白な石畳。気付けばもう頭上には大きな月が輝いている。


それらを眺めているうちに早くも運ばれてきたお茶とたい焼きが二枚、目の前に置かれた。



「いただきます」



熱いお茶を一口飲めば、口の中に濃い抹茶の味と苦味がほどよく広がる。

それに続いてたい焼きを食べると、つぶあんの上品な甘さが際立つ。外はサクサク、中はもっちりとしている皮もまたいい。



「お、おいしい……!」



思わず口をもぐもぐとさせたまま呟いた私に、神永は笑ってお茶を一口飲んだ。



< 234 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop