愛してもいいですか
「架代社長は、相変わらず笑顔を作るのが下手くそですね」
「え?」
「元々眉間にシワばかり寄せているから、無理に笑っても顔がこわばってバレバレですよ」
ば、バレバレ!?
自分ではうまく誤魔化せていたと思っていたばかりに、その指摘に一気に恥ずかしくなってしまう。
「だからこそ、以前日向に笑いかけているあなたを見た時は驚きました」
「え……?」
神永から突然こぼされた『日向』の名前。きっと、私の違和感の理由をどことなく感じ取っているのだろう。
「先程の涙の理由を、よかったら聞かせていただけませんか?俺はもう、あなたの秘書ではないのですから。一人の、友人として」
それでも感じるだけじゃなく、きちんと聞こうと向き合ってくれる。そんな神永の気持ちが嬉しくて、気持ちを落ち着け口を開いた。
「……日向を、営業部の秘書に戻した」
「え……?どうしてですか?」
「そのほうがいいもの。きっと」
ぼそ、と呟くと目の前の湯のみから漂う湯気が、ゆらりと揺れた。
「神永は、日向の憧れの人の話って聞いたことある?」
「え?あぁ……はい、以前飲み会で、酔っ払った日向から聞いたことがありますけど……もしかして、社長もその話をご存知で?」
少し驚いたように問う神永に、酔っ払って好きな人のことを話してしまうなんて日向らしいと思いながら小さく頷く。