愛してもいいですか
11.想いのまま



近づいていたと、思っていたんだ。

だけど手は簡単にほどけて、あなたはまた、遠くなる。





「日向さーん」



ある平日の午後、三階のフロアの廊下で呼ばれた名前に、足を止めて振り返る。



「はい?」

「これ、頼まれてた資料です。どうぞ」

「あ、ありがと。助かるよ」



秘書課の後輩である女性社員からそう書類を受け取ると、いつものように笑顔を見せて目の前の『営業部』と書かれたフロアへ足を踏み込む。

バタン、とドアを閉じた途端、ホームであり営業部の人しかいない部屋、という油断からか、「はぁ……」と深い溜息とともに、がっくりとその場へしゃがみ込んだ。

そんな俺を、室内にいた先輩や後輩、課長である西さんたちは物珍しそうに見る。



「日向さんが元気ないなんて珍しいですねぇ」

「そりゃそうだ。社長にいびられて逃げ出した男だぞ?仕事も嫌にもなるって」

「あれ、社長に散々使われた末にいらないって捨てられたんじゃなかったですっけ?」

「どっちも違いますから」



俺の急な異動から、社内に広まった大袈裟な噂話をする先輩と後輩。その二人にバッサリと言うと、力なく立ち上がり書類を目の前の自分用のデスクへと置いた。



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