愛してもいいですか
「はぁ……」
深く溜息をつく俺に、西さんは心配そうにこちらを見る。
「でもさ、社長秘書辞められてよかったんじゃない?」
「え?」
「あの社長ワガママな人らしいし、大変だったでしょ。実際私も日向くんがよく使いっ走りさせられてるの見たし」
茶色いポニーテールを揺らし言う彼女の言葉は、純粋な心配からだろうか。だとしたらありがたいけれど、分かっていないな、なんて気持ちも感じてしまう。
「……いいえ、全然。むしろ仕事に関してはほとんど自分であれこれやっちゃう人だから、俺は使いっ走りくらいしかすることもなくて」
あれじゃなきゃいやだとか、一見ワガママな要求もきっと彼女の本心じゃない。俺を試して見定めていただけなんだと分かっている。
それに、俺だけに言ってくれるそのワガママが嬉しかったから。
「楽しかった、です」
その近くに居られる毎日は、これまでのどんな日々よりも輝いていたんだ。
ぼそ、と呟いた俺に西さんは無言のままこちらを見つめた。するとその背後からは先輩社員が思い出したように言った。
「そういえば噂で聞いたんだけど、社長って前の秘書とデキてるらしいじゃん?」
「へ?」
架代さんと、前の秘書って……もしや、神永さん?唐突なその一言に、思わずきょとんとしてしまう。