愛してもいいですか
「ねぇ、日向くん」
「はい?」
うーんと頭を悩ませていると名前を呼ぶ声。するとその時、背中にトン、と体の寄り添う感触がした。
「……西さん?」
「もうさ、社長のこと気にするのはやめない?」
「え?」
小さな彼女が俺の背中、肩甲骨のあたりに額をあてるのを感じる。
「あの人は、自ら日向くんを手放して他の秘書を選んだんだよ。そもそも社長と秘書じゃ立場も違う。私ならずっと日向くんと同じ位置で、日向くんのことだけを見てあげられる」
その言葉は、きっと『上司』以上の彼女の感情。
確かにそう。架代さんは自らの意思で俺を手放した。立場も違う。俺は所詮、代えのきく秘書のひとりだ。……だけど。
「だから、私を見て……」
言いかけた西さんの言葉に、俺は振り返ると彼女の体を離した。
「すみません。何を言われてもきっと、俺は西さんを選べない」
「え……?」
「今までもこれからも、俺は彼女しか見えないんです。営業部の秘書も楽しいけど……居たいのは、ここじゃない」
拒まれても嫌われても、またいつかあの部屋に、あの場所に戻れるんじゃないかって期待をしている自分もいる。
「嫌がられても、それでも、俺はあの人の隣にいたいんです」
彼女を真っ直ぐに見つめ言い切ると、俺は営業部のフロアを後にした。