愛してもいいですか
俺のことだけを、か……。
どうして、それ以外の目はこちらへ向くのに、向いてほしい目はなかなか向いてくれないんだろう。
きっと、彼女にとっては精一杯の勇気。だけど、それを受け止めることの出来ない俺は優しくする資格もない。
寧ろ中途半端に優しさを見せるのは、酷なことだ。だからこそ突き放すようにして断ったけれど。
もしかして、架代さんもこういうことだった?俺の気持ちがバレて、迷惑だから距離を……なんて、考えてはまた溜息が出る。
「はぁ……」
いくあてもなく営業部を出てきちゃったけど……とりあえず下のフロアに必要な資料でも取りに行こうか。
そう廊下を歩いていると、目の前に突然ぬっと現れた影。
「わっ!」
「なっ!?」
思わず足を止めて見れば、それはすぐそこの第二営業部のフロアから出てきたらしい神永さんだった。
今日もオールバックにした黒い髪と細いフレームの眼鏡、真っ黒なスーツで秘書というより執事のような風格のその姿に思わず眉間にシワが寄る。
「……神永さん」
「あぁ、日向か。お疲れ」
「お疲れさまです。なにしてるんですか神永さん、とりあえず一発ぶん殴ってもいいですか」
「いいわけあるか」
八つ当たり丸出しで言う俺に、神永さんは冷静に突っ込む。