愛してもいいですか



すると、不意にその視線は私の手元の皿へとまる。



「あれ、宝井さん……ニンジン苦手ですか?」

「うっ……実は、味がちょっと」



それは真っ白な皿の隅に除けられた、サラダのニンジン。

元々野菜自体が子供の頃から苦手で、普段は自分から食べることもあまりない。中でもニンジンは一番苦手だ。

けどいい歳して嫌いなもの除けてるなんて、行儀悪かったかな…?苦い笑顔で彼の様子を伺うと、松嶋さんはははっと笑った。



「本当?子供みたいで可愛いですね」

「えっ!」

「完璧そうに見えるのにニンジン苦手って、すごいギャップじゃないですか」



子供みたいなんて、恥ずかしい……!だけど引いたりしないで、笑って『可愛い』って受け止めてくれる。



……嬉しい。

にやけてしまいそうな口元を隠すように、紙ナフキンで唇を拭いた。



「そういえばずっと聞きたかったんですけど、宝井さんの仕事って何関係なんですか?」

「えっ、あー……えと、建築っていうか、内装デザイン、みたいな感じで……」

「へぇ、じゃあうちとも関わりあるかもしれないですね。ちなみにどこの会社ですか?」



突然ふられた仕事の話に、ギクッと心臓が嫌な音をたてる。

松嶋さんの勤める高台不動産といえば、うちも取引のある会社。もしかしたら、社名を言ったら自分の立場がバレてしまうかもしれない。

けど……彼なら知られても大丈夫なんじゃないかって、信じたい気持ちもある。うん、きっと大丈夫。大丈夫……だよね。



< 46 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop