愛してもいいですか
すると、不意にその視線は私の手元の皿へとまる。
「あれ、宝井さん……ニンジン苦手ですか?」
「うっ……実は、味がちょっと」
それは真っ白な皿の隅に除けられた、サラダのニンジン。
元々野菜自体が子供の頃から苦手で、普段は自分から食べることもあまりない。中でもニンジンは一番苦手だ。
けどいい歳して嫌いなもの除けてるなんて、行儀悪かったかな…?苦い笑顔で彼の様子を伺うと、松嶋さんはははっと笑った。
「本当?子供みたいで可愛いですね」
「えっ!」
「完璧そうに見えるのにニンジン苦手って、すごいギャップじゃないですか」
子供みたいなんて、恥ずかしい……!だけど引いたりしないで、笑って『可愛い』って受け止めてくれる。
……嬉しい。
にやけてしまいそうな口元を隠すように、紙ナフキンで唇を拭いた。
「そういえばずっと聞きたかったんですけど、宝井さんの仕事って何関係なんですか?」
「えっ、あー……えと、建築っていうか、内装デザイン、みたいな感じで……」
「へぇ、じゃあうちとも関わりあるかもしれないですね。ちなみにどこの会社ですか?」
突然ふられた仕事の話に、ギクッと心臓が嫌な音をたてる。
松嶋さんの勤める高台不動産といえば、うちも取引のある会社。もしかしたら、社名を言ったら自分の立場がバレてしまうかもしれない。
けど……彼なら知られても大丈夫なんじゃないかって、信じたい気持ちもある。うん、きっと大丈夫。大丈夫……だよね。