愛してもいいですか
「えと、J.I.デザインって、言うんですけど……」
「J.I.デザイン?あぁ、やっぱりうちとも取引あるところでしたね。確かそこって社長がまだ若い女性ってことで有名ですよね、宝井建設の社長の娘とかで……あれ?」
そこまで言って松嶋さん自身も気付いたらしく、『宝井』という名前に私の顔を見る。
「もしかして、宝井さんって……」
「ご、ごめんなさい!会社員って言ったんですけど、実は社長でして……あっでも騙すつもりとかはなくて!ただ、その……」
やはりバレてしまったことに、私は慌てて頭を下げた。
お、怒られる!?引かれる!?取引先の社員をからかっていると思われたらどうしよう……!
「あはは、焦りすぎですよ」
けれど、そんな私にかけられたのは予想外の一言。
「え……?」
「いやー、普通の社員より貫禄あるとは思ってましたけど、まさか社長とは。さすがにちょっとびっくりしました」
「……お、怒らないんですか?」
「え?なんで?」
「だって私、黙ってたといいますか、隠してたといいますか……」
俯いたまま上目でちら、と見れば、高級感のあるレストランを背景に松嶋さんは柔らかな笑顔のまま頷く。
「あはは、いいですよ。社長さんともなると色々と大変なこともあるでしょうし。でもバレるの分かっていて勤め先を教えてくれたってことは、俺を信用してくれたってことでしょう?そっちのことのほうが俺は嬉しいです」
「松嶋さん……」
「それに、俺が出会ったのは一人の女性としての宝井さんですから。あなた自身と向き合いたいです」
隠し事をしていたことをどうこう言うより、話してくれたことを喜んでくれる。私を、『一人の女』として、受け入れてくれる。
そんな小さな言葉が、とても嬉しい。やっぱり間違いない。彼は大丈夫。信じていいんだ。
「……ありがとうございます、」
彼とならきっと、理想通りの恋が出来る。