愛してもいいですか
「戻りました!」
日向はそれから十分としないうちに駆け足で戻ってきた。その両手には、スーパーで買ってきたと思われる野菜や肉などさまざまなものが入っている。
その姿に書類仕事をしていた私は顔を上げ、席から立ち上がった。
「買ってきたはいいけど、どこで調理する気?」
「どこでって、給湯室ですよ?あ、そっか。架代さんは給湯室の奥まで入ったことなかったですっけ」
「へ?」
荷物を手に歩いて行く日向に続くようにして、向かったのは社長室のすぐ隣の部屋、給湯室。
ドアを開ければそこには小さな流しとポット、戸棚……と最低限のものが揃った普通の給湯室だ。
「ここの奥です」
「奥?」
言われて見れば、普段私が入り口から見ている分には気づかなかったけれど、戸棚に隠れた奥には更にドアがもうひとつある。
そこを開けた先にあったのは、ガス台に冷蔵庫、レンジと鍋や食器など、一通りの用具が揃った小さなキッチンだった。
「キッチンなんてあったの?」
「えぇ。なんでも架代さんの前に社長を務めていた方が料理好きで、昼間や夜にここで自炊出来るようにと物置を改築したそうで」
「知らなかった……」
気付くわけないか、私日頃自分でお茶をいれることすらもしないもんなぁ……。
まじまじと見渡すと、日向は袋からにんじんやじゃがいもなどを取り出し並べる。そしてスーツのジャケットを脱ぐと、チェック柄のシャツの袖をまくり料理にとりかかった。