愛してもいいですか
「何年も見てるとそれなりに分かるんだけどよ、あいつ人懐こいけど本音は隠しがちっつーか、踏み込ませないところはきっちりしてるっつーか……したたかな奴でよぉ」
「したたか……?」
「おう。だからこそ、職場ではいくらチャラついていようとプライベートには持ち込まないんだろうな。要するに、あのチャラさも奴の仕事のやり方ってこった」
日向の、やり方……。
言われてみれば、確かに。あの軽い雰囲気だからこそ、社員たちともコミュニケーションをとれているのかもしれない。
『ああ見えてガード固いって噂だし』
『仕事用の携帯の番号は教えても、プライベート携帯は絶対教えてくれないらしいし、どんなにくっついてもキスとかそれ以上は絶対しないんだって』
思い出すのは今朝の、女性社員たちの噂話。
……まぁ、そう考えれば納得できないことも、ない。かもしれない。
チラ、と見た先では、あははと笑いながらビールを飲む気の抜け切った日向の姿。初めて見る、表情。
「ってことは、プライベートの顔を見せた姉ちゃんは和紗にとって特別ってことなんだろう」
特別、……。
別に、あんな男の特別になったって何の得もしない。そう思う反面、『特別』というその響きがじんわりと心に響く。
……嬉しい。いつもと違う一面を知ることが出来たこと。特別かもしれない、という期待と可能性。
ドキ、と心の奥で聞こえた音を誤魔化すように、ゴクリとまた一口ビールを飲んだ。