愛してもいいですか
「だって普段から仕事仕事ばかりで、デートもきっとままならないでしょう?結婚しても自分が一般社員なら架代さんの方が収入もいいわけで……男のプライドっていうのもありますし。あ、架代さん自身も家事も出来ないですしね」
「うっ……」
「だから少なくとも、理解のない人ではきっと無理ですよ」
容赦のない言葉。けれどそれは事実で、下手な励ましをしないところがまた日向らしいとも思う。
「……けどそれなら大丈夫よ。仕事に関しては、松嶋さんなら理解してくれるもの」
「理解?社長って立場をよく分かっていなくて、見て見ぬふりをしているだけじゃなくてですか」
「なっ……」
どうしてそうひねくれた言い方をするのか、思わず声を荒げようとした私に、足を止め振り向いたその顔は笑っていない真面目な顔。
冗談やからかいなんかじゃない。彼が、本気で言っている証拠。
分かっていない?見て見ぬふり?
そうかもしれない、だけど、信じたい。私は彼の言葉を、信じたい。
「……私、当然だけど、今まで何人か付き合った人がいるの」
「え?」
「サラリーマン、飲食店、自営業……いろんな職業の人と出会って、それなりに結婚とかも考えて。だけどみんな、お金や『社長』って肩書きに惹かれてただけだった。……言ってしまえば、それがなければ私に魅力なんてないのよ」
どんなに愛を誓っても、未来を語っても、その目に映るのは私じゃない。『大手企業の社長の娘』『子会社の社長』その肩書きとお金だけ。