愛してもいいですか
4.僕だけのもの




十月半ばの秋の空は、今日も爽やかな青色に白い雲が流れている。

朝七時を迎えぽつぽつと人の増え出すオフィス街を歩き、やってきたのはガラス張りの小さなビル。



『J.I.デザイン株式会社』と書かれたその建物の前で足を止め、ガラスに映った自分の姿をチェックする。

程よくセットした髪に剃り残しのない髭、まっすぐに締めた青いチェック柄のネクタイに今日は明るいグレーのスーツ。



「……よし、」



いつも通りの自分に小さくひとつ息を吸い込むと、茶色い革靴で会社の中へと踏み込んだ。



秘書の朝は早い。出社早々、やることはたくさんあるからだ。

それは社長秘書就任三ヶ月目の俺、日向和紗も変わらない。



この会社に入社して、八年。デザイン会社に就職したはいいものの、そういった関係の勉強はしてこなかった俺は、入社当初デザインとは無縁の営業部にいた。

それとなく働くうちに、物覚えの良さと無意識にしていた気遣いを買われ、上司の勧めで四年前から秘書課へ異動。営業部の部署秘書として勤務し、つい三ヶ月前・秘書課の先輩である神永さんからの指示で社長秘書となった。


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