愛してもいいですか



「こちら、本日のスケジュールになります。昼間は取引先のSBTファクトリーの柴田社長との昼食会ですので、午前の仕事は十一時には切り上げてください」

「わかった。じゃあそれまで書類仕事するから、お茶持ってきて」

「かしこまりました」



茶色いジャケットを脱ぎながら頷く彼女に今日一日のスケジュールを書いた紙をデスクに置きながら、俺はお茶を入れるべく社長室を出た。



彼女、宝井架代さんは、この会社の社長であり親会社の社長令嬢。

昔から熱心に勉強をしてきたということもあり、仕事は出来る。考えもはっきりしているし、二十七歳という年齢にしては落ち着きもある。

見た目も良いものだから、当然モテる……と思いきや、そこはあまり上手くいっていないらしく、寧ろキツそうな雰囲気と『女社長』というこれまた近寄り難い肩書きもあり、正直社員には引かれ気味だ。

婚活もしようと頑張っているそうだけれど……その成果は、まぁ、どうなんだろうか。



熱湯で濃いめに淹れたお茶を、彼女の愛用する水色のカップへコポコポと注ぐ。この作業も、最早慣れたものだ。


カップを盆に乗せ社長室へと戻ると、広々とした部屋の真ん中にある大きなデスクでは、先程俺が用意した書類を見ながら確認作業をしているらしい架代さんの姿がある。

内容を熱心に見るあまり、戻ってきた俺には気付いていないのだろう。無言で書類を見るその横顔は、相変わらず美人だ。


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