素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「そう。過去の裁判記録さ」


ああ、その判例かあ。


「なんで?」

「ん? なんでって?」

「なんでそんなの読んでるのよ?」

「そりゃあ面白いし……」

「面白い? 変わった趣味ね?」

「趣味じゃねえよ」


ふと横の本棚に目をやると、六法全書や法律関係の分厚い本が何冊も並んでいた。


「もしかして法律を勉強してるの?」

「まあな」

「じゃあさ、司法試験とか受けたりするの?」

「ああ、受けてる」

「きゃー、すごいじゃない!」


確か司法試験って、国家試験の中でも最難関の難しい試験のはず。よく知らないけど。という事は、この見た目は凡庸でアルバイターの阿部和馬は、一流大学の法科を出て、大学院も出てるって事になると思う。

びっくりだし、私の阿部和馬を見る目がちょっと、いやかなり変わった気がする。


「へえー、頭いいんだあ」

「よかねえよ」

「いやいや、ご謙遜を……」

「謙遜じゃねえよ。頭がいいなら、とっくに試験に受かってるだろ?」

「えっ?」

「今年で3回目」

「ああ……」


2回受けて落ちたって事ね。


「“3度目の正直”って言うじゃない? 頑張りなよ」

「ありがとう。でも試験はもう終わってんだよね。5月に……」


という事は3回目もダメだったのかあ……


「ま、また頑張ればいいじゃん。ね?」

「慰めてくれるのは有り難いけど、まだ落ちたと決まったわけじゃねえから」

「え?」

「発表は9月だから」

「……ああ、そうなんだあ」


でも、言っちゃ悪いけど、きっと今回もダメだろうなあ……

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