素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
突然のロストバージン
「そうかあ。弁護士を目指してるんだ……」

「違うよ」

「え?」

「なぜか司法試験を受けるって言うとみんなそう言うけどさ、俺は弁護士は目指してない」

「そうなの? だったら何を目指してるの?」

「検事さ」

「検事?」

「ああ。本当は裁判官を目指したいところだけど、そっちは無理そうだからね。と言っても検事も難しいから、結局は弁護士になるかもしれない。ま、いずれにしても司法試験に受かってからの話だけどな」

「どうして弁護士じゃダメなの? 検事って、なんかちょっと……」


映画やドラマで見る限り、検事って冷たいというか高圧的というか、被告人を容赦なく追い詰める感じで、悪役って言ったら言い過ぎだろうけど、なんか印象がよくないのよね。そこ行くと弁護士は、弱者の味方って感じで、かっこいいと思うんだけどなあ……


「印象よくないか?」

「うん、ちょっとね……」

「俺は悪人の弁護なんかしたくない。逆に懲らしめてやりたいんだ。コテンパンにね」


それを聞き、私は阿部和馬に初めて会った時の事を思い出した。万引きをした男の子達を追い掛けた彼を。もっとも、店員として当然の行動だろうけども。


「ふーん。でもさあ、“罪を憎んで人を憎まず”じゃないの?」

「おお、鋭い突っ込み。やるねえ、真琴ちゃん。少し見直したよ」


と言って阿部和馬は白い歯を見せ、あははと笑った。とても爽やかに。

へえー。この人ってこういう笑い方もするんだあ。


私は少しどころか、大いにこの人を見直した。阿部和馬という男を……

< 11 / 83 >

この作品をシェア

pagetop