素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
慣れないキッチンの配置と調理器具に少し戸惑ったものの、我ながら割と手際良くご飯が出来たと思う。


『いただきます』

「おお、美味い!」

「そう?」

「ああ、美味いよ、この焼肉。ビールが“進む君”だなあ。ほら」

「ありがとう」


阿部和馬はそう言って私のグラスにビールを注いでくれた。私に“酒は飲めるのか?”と聞かなかったのは、彼が働くコンビニで私がよくビールを買って帰るからだと思う。

阿部和馬が言う通り、ビールがとても美味しく、いくらでも飲めてしまいそうだ。と言っても私はあまりお酒に強い方ではないので、3杯目あたりでかなり来た感じだけども。


あ、そうだ。阿部和馬に文句を言ってやろうっと……


実は阿部和馬には前々からある事で文句を言いたかった。ただ、どう切り出してよいのか分からず、内容が内容だけに言う勇気が出なかったんだ。でも、今なら言えると思う。お酒の力を借りて……


「ねえ、前から言いたかったんだけどさ……」

「ん?」

「あんまり音、出さないでくれる?」

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